職人について

 八王子セレオでのクリエイターズマーケットが無事終了しました。たくさんのご来場、そしてお買い求めいただいた方々、ありがとうございました。
 
 今回のイベントでは、とてもステキな出会いがありました。本物の革職人さんが近くで出品されていたんです。その方の作品を見て、お話もたくさんさせていただき、とても勉強になりました。考え方や、制作に取り組む姿勢など、こういう方を「職人」と呼ぶのだなぁと改めて感じました。

 さて、そこで常々お話ししたいと思っていたことを書こうと思います。

 実は私、自分のことを「革職人」だとは思っていません。もちろんサックス職人でもありません。それは、私の「職人」という言葉の定義が、そのひとつの「職」のカテゴリー内の全ての技術を習得した人、もしくは、習得しようと日々鍛錬している人、だからです。私といえば好きなものを好きなようにつくっているだけで、鍛錬も勉強もほとんどしていません。なので自分のことを「職人」と名乗るのは、とてもとてもおこがましいと思っているんです。ただ、ほとんどの方は、「職人」という言葉を「何かを専門的につくっている人」という意味合いで使っていると思いますので、私をそう呼んでいただく分には全く構いません。

 それではなぜ私が「職人」に対してこんなに明確な定義をしてしまっているのかといえば、これはおそらく、長い間バンド活動をしてきたからだと思っています。

 バンドを始めた頃は楽器を操る技術なんて、ほとんどありませんでした。それでもライブをし、必死にサックスを吹いていました。技術はなくても若さや音を通して出されるエネルギーみたいなもので、良い音楽はつくれるんです。
そして歳を重ねてゆき、若さだけでは通用しないと気づき始める頃には、それまでにどれだけ技術を磨いてきたかで、音楽の仕事が得られるか否かが決まってくるのです。例えば、レコーディングの現場には、スタジオミュージシャンと呼ばれる職業の方がいます。彼らはまさに「職人」です。技術、経験、センスを駆使してどんな音楽にも対応して音を紡ぎ出すことができます。私はそこには辿り着けませんでしたが、この「職人」という言葉の明確な定義は、そんな世界を垣間見てきたからだというわけです。

 もちろん、革も音楽も「職人」がつくったものがすべてではありません。むしろ、独自の世界観を放ち、感動を与えてくれる作家やミュージシャンは、「職人」のような技術を持ち合わせていない場合が多いです。私も、私にしかできないものを目指し、感動を届けられるようなものづくりを続けてゆきたいと思っています。