“octava Bb” と記憶について

1年ほど前、私は自分用に小さなバッグをつくろうとデザインを考えていました。
自分用ですから、ただただシンプルに格好いいと思えるものをと模索していたのですが、そこへ、ふと、ある記憶がよみがえってきました。

それは、渋谷のスクランブル交差点でのことです。
信号待ちをしている私の目の前を自転車で颯爽と走り抜けて行った女性がいました。彼女の背中にあったのは、マチの部分をぺたんと薄くたたんだ、小さな布製のバッグ。今で言うサコッシュのようなイメージでしょうか。すこしミリタリーテイストが入ったシンプルなデザインで、彼女の洗練された雰囲気にとても良く合っていました。
全てが衝撃的に格好よく、遠く人混みに紛れてしまうまでの数秒間、吸い込まれるように彼女とそのバッグを見つめていました。

よみがえってきたこの光景に、とても驚きました。
それは、私がまだレザークラフトに興味を持っていなかった20年以上前の出来事だったからです。
そしてそこには、求めるイメージにぴったりのバッグがあったのです。
図らずも、遠い昔に見た光景が今これからの制作につながりました。
運命的とも思える不思議な出来事に、「おお!」と声が出るほどの感動を覚えました。

そして記憶の中の、あのバッグのような平らに折りたたまれた状態というのをヒントにデザインを考えてゆきました。試作、試し使いを繰り返し、ついに、直線のみでカットした一枚革を用いた、とてもシンプルな構造のバッグにたどり着いたのです。

平たくたたんだまま長財布とスマートフォンを入れてサコッシュのようにも使用でき、マチを広げれば、さらにポーチや小ぶりな水筒などが収められるほどの容量になります。デザイン、使いやすさ、ともに理想的なかたちに仕上がりました。

このバッグを肩に掛けていると、さまざまに思いが巡ります。
あの自転車の女性のこと、若かりし頃の自分のこと、そしてなにより、20数年前のあの日から現在まで、色褪せる事なく私の中にあり続けた、あのバッグのこと。
そこから生まれたこのバッグは、まるで私の身体の一部であるかのような気さえしてくるのです。

商品ページ
“Octava Bb”
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