avoid note ver.3

革は、食肉用に育てられた牛、豚(ごく一部は乳牛)の副産物として取れる皮が原料です。逆に言うと革をつくるために育てられる牛や豚というのはいないんです。当然、お肉を取るためですので、飼育中も皮膚を保護するような対策は最低限しか行われません。虫に刺されて痒ければ何処かに擦り付け痒みを取りますし、人間と同じように肌が荒れることもあります。

皮が革へと鞣(なめ)されても、当然、生前に付いたキズや肌荒れ、シミなどは残ります。革への色付けの工程で顔料を使うと、このキズやシミはほぼ消してしまうことができます。表面にお化粧をするようなイメージです。発色の良い色の革は、大体この方法で色付けされています。

一方で、より自然な革の質感や風合いを残すために、染料で染める方法もあります。この場合、キズやシミはそのまま、消えることはありません。派手な色味も出すのが難しいです。でも、あえて手を加えすぎず自然な風合いを残すことで、使うほどに手や身体に馴染んでゆき、育ってゆくような革となります。これは革の最大の魅力と言っていいかもしれません。D.A.61 leather works 製品は、ほぼこちらの製法の革を使用しています。難点を言えば、キズや肌荒れの部位を避けながらの制作は、廃棄が多くなり、コスト面や心情的にも悩まされてしまう点でしょうか。

先日、昔からお世話になっている革問屋の倉庫にお邪魔し、棚の奥底に眠っていた、とても魅力的な革を発見しました。今まで見たことのない、まるで海面に波がうねっているような深いシボ(シワ加工)が印象的な革でした。ただ、いたるところにキズがあり、このキズを避けて製品をつくることが難しいのも一目瞭然で、売れずに倉庫の奥底に眠っていた理由も納得できました。

そこで私は、かねてより ”avoid note” と名付けた試み(革のロスを最小限にすべく、キズやシミなどをその牛が生きた証、個性として捉え、そのまま製品にする)として何かをつくれないかと考えました。
生きていたのですから、どんな牛や豚にも当然キズやシミはできます。でも、革のバッグにキズやシミがあることは嫌だと思ってしまいます。ここに違和感や疑問を感じるのは、きっと私だけではないはずです。

まだぼんやりとしたイメージがあるだけですが、この革の、ひいてはこの牛の個性を生かした格好良いバッグをつくろうと思っています。